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宇都宮地方裁判所 昭和49年(行ウ)5号 判決 1975年10月16日

原告 山田徹

被告 小山市長 ほか一名

訴訟代理人 玉田勝也 石川博章 渡辺芳弘 久嶋柳次 ほか二名

主文

一  原告の請求はいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告小山市長が原告に対して昭和四八年九月二〇日付でなした停職三ケ月間の懲戒処分を取消す。

2  被告小山市は原告に対し、金五二万三四〇〇円を支払え。

3  訴訟費用は被告らの負担とする。

4  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  原告は昭和四七年四月一日小山市職員として採用され、昭和四八年四月に同市総務部市民税課に配置され、昭和四九年六月二二日依願退職するまでの間、同市に勤務していた。被告小山市長は被告小山市の公務員である。

2  原告は昭和四八年七月一八日、原告の直属の上司である山中市民税課長より同年八月二四日の宿直をするようにと命じられたが、常々宿直制度に疑問をもつていた原告は右八月二四日の宿直を拒否した。

3  ところが、被告小山市長は右原告の宿直勤務拒否が職務命令違反であるとして、昭和四八年九月二〇日付をもつて地方公務員法第二九条第一項二号の規定に基づき原告を停職三ケ月間の処分に附した。原告は、その懲戒処分書及び処分説明書の交付を同日受けた。

4  原告は右処分に不服であつたので地方公務員法第四九条の三の規定に基づき昭和四八年九月二五日に小山市公平委員会に不服の申立をなしたところ、同委員会は昭和四九年三月六日付をもつて原告に対する懲戒処分は相当と認めるとの判定を下し、原告は、その判定書を同月一六日に受領したが、右判定に不服であつたので、不利益処分についての不服申立てに関する規則(昭和二九年公平委員会規則第二号)第一四条の規定により、同年四月一八日に小山市公平委員会に対し不利益処分についての再審請求をなしたところ同年五月九日付をもつて、本件再審請求を却下するとの決定があり、原告は同日右決定を知つた。

5  しかしながら、被告小山市長がなした前記3の懲戒処分は次の点において違法がある。

すなわち、原告は昭和四八年七月一八日宿直制度についての疑問を大木人事課長にただしたところ、「上司は地方公務員法三二条に基づき時間外にも命令権を持ち、職員は命あらば時間外といえども職務を遂行しなければならず、時間外勤務を拒否することはできない。そして、宿直は時間外勤務であるから、上司より命を受けた以上拒否できない。」旨の説明を受けたので、原告は右大木人事課長の「宿直は時間外勤務」との説明に基づき、時間外勤務なら勤務命令に服するか否かは原告の自由意思であると考え、宿直勤務を拒否したのであるのに、被告小山市長は「宿直を時間外労働として、これを拒否したのは職務命令違反である。」として前記懲戒処分をなしたものであるから、右懲戒処分は明らかに裁量権の踰越または濫用であつて違法である。

6  原告は被告小山市長の右違法な懲戒処分により次のような損害を受けた。

(一) 停職期間三ケ月分の給料として得べかりし利益金二二万三四〇〇円

(二) 原告の受けた経済的苦痛並びに不名誉処分による精神的苦痛に対し、慰謝料金三〇万円

7  よつて、原告は被告小山市長に対し昭和四八年九月二〇日付でなした停職三ケ月間の懲戒処分の取消を求めるとともに、被告小山市に対し、損害賠償金五二万三四〇〇円の支払を求める。

二  請求原因に対する認否(被告両名)

1  請求原因第1項ないし第4項の事実は認める。

2  請求原因第5項及び第6項の事実は否認する。

三  抗弁(被告両名)

被告小山市長が原告に対してなした本件懲戒処分の根拠は以下のとおりであり、何ら違法はない。

被告側は、原告が宿直拒否の態度を示して以来、再三にわたり、口頭及び文書でもつて、原告に対し「宿直勤務は労働基準法四一条三号の規定に基づく断続的労働であり、同法三六条の規定に基づく時間外労働とは性質を異にするから、宿直を時間外労働として拒否することはできない。」と説明したにもかかわらず、原告は当初より「宿直勤務は労働基準法三六条の規定に基づく時間外労働であり、同条に規定する協定が締結されていない以上、上司の職務命令だけでは宿直勤務を命ずることはできない。」とかたくなに主張して譲らないまま宿直勤務を拒否したものであつて、宿直勤務についての被告側の説明には何ら落度もないし、また原告は被告側の説明に基づいて、宿直を拒否したのでもないのである。

そして、被告小山市長は、原告の右宿直勤務拒否を、地方公務員法三二条の職務命令違反として停職三ケ月の本件懲戒処分をなしたのであるが、本件事案の経過、宿直事務の重要性、職場規律の保持、本件宿直拒否後の原告の態度、従前の懲戒処分との比較等諸般の事情からすれば、本件懲戒処分は相当のものであつて、裁量権の踰越または濫用はなく適法である。

四  抗弁に対する認否

すべて否認する。

理由

一  請求原因第1項ないし第4項の事実については当事者間に争いがない。

二  そこで、本件懲戒処分が適法であるか否かにつき判断することとするところ、原告は、この点に関しまず、本件宿直拒否は、被告側の大木人事課長の「宿直は時間外勤務」との説明に基づくものであると主張する。

<証拠省略>によれば、なるほど、原告が、昭和四八年七月一七、八日頃、大木人事課長に宿直勤務の法的性格等について問いただしたところ、大木課長は、確信のないまま「宿直勤務は時間外勤務であるが、上司からの命令があつた以上拒否できない。」旨の説明をしたこと、及び同年八月二〇日までは宿直を断続的労働(労働基準法四一条三号)としてとらえる説明を被告側は原告に対しなしていないことが認められる。したがつて、「時間外労働(同法三六条)」と混同されやすい「時間外勤務」なる文言を使用した右大木課長の説明は調査不足であり、軽卒のそしりを免れないことは確かである。しかしながら、<証拠省略>及び弁論の全趣旨によれば、被告側は、昭和四八年八月二〇日になつて「宿直勤務は時間外労働ではなく、断続的労働である。」との統一見解をまとめ、これを文書(<証拠省略>右文書が山中課長の私見を表示したものではなく、被告側の統一見解を表示したものであることは、文書の体裁からしても明らかである。)にして、原告に手渡していること、原告は、大木課長の説明をうける前から「宿直は時間外労働ではないか」との見解を自分自身有しており、大木課長から「宿直は時間外勤務」との言質をとつた以上、後は聞く耳を持たないという態度であつたこと、以上の各事実が認められる。右事実からすれば、原告の本件宿直拒否は、宿直についての被告側の説明に基因するものではなく、むしろ原告自身に責任があつたと言わざるをえない。

三  しかして、<証拠省略>、及び弁論の全趣旨によつて認められる行政機関内部における職場規律の保持の必要性、宿直拒否後の原告の態度、宿直事務の重要性、従前の懲戒処分との比較に前記認定事実を加えて総合勘案すれば、停職三ケ月という本件懲戒処分は多少重いきらいはあるが、なお被告小山市長の裁量権の範囲内であると断ぜざるをえない。

四  以上のとおりであり、本件懲戒処分は適法であるから、その余の事実について判断するまでもなく原告の本件請求はいずれも理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 渡辺均 田辺康次 市瀬健人)

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